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大阪地方裁判所 昭和53年(わ)3219号 判決

本店所在地

大阪市平野区流町三丁目一一番一八号

桧建設株式会社

(右代表者代表取締役 桝本秀美)

本籍

大阪市平野区平野上町二丁目四番地

住居

同区流町三丁目一一番一八号

会社役員

桝本秀美

昭和一〇年一月六日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官鞍元健伸出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一、被告人桧建設株式会社を罰金二、〇〇〇万円に、被告人桝本秀美を懲役八月に、各処する。

一、被告人桝本に対しこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

一、訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人桧建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、大阪市平野区流町三丁目一一番一八号に本店を置き、住宅の建売業等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人桝本秀美は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人桝本秀美は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外し、仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和四九年六月一日から同五〇年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五一八二万四八一二円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五〇年七月三一日、大阪市平野区平野西二丁目二番二号所在の所轄東住吉税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四四八万九一八一円でこれに対する法人税額が一五二万七五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇六六万八〇〇円と右申告税額との差額一九一三万三三〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れ、

第二、昭和五〇年六月一日から同五一年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八二三万七七五一円(別紙(三)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五一年七月三一日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六四八万二四九八円でこれに対する法人税額が六六四万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五九九一万七六〇〇円と右申告税額との差額五三二六万九四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人桝本の当公判廷における供述

一、同被告人の検察官に対する各供述調書四通

一、収税官吏の同被告人に対する各質問てん末書一〇通

一、証人桝本澄子の当公判廷における供述

一、公判調書中の証人東春雄(第五、六回)、同万代一寿(第七回)、同前田精一(第八、九回)、同鳥羽幸夫(第一〇回)、同田中純次(第一一回)、同西上昇(第一二、一三、一四回)、同佐山守(第一五回)同篠原滋(第一六、一七、二五、二六回)、同高橋進(第一八、一九回)、同細井斉(第二二、二三回)、同山本正(第二四回)、同桝本澄子(第二七回)の各供述記載部分

一、木村正彦の検察官に対する供述調書

一、収税官吏の木村正彦(三通)、東門平蔵に対する各質問てん末書

一、木村正彦、田中猛(一八通)、菊池一俊、向井深(八通)、藤井修一、前田精一、上谷一夫(三通)、田中純次、中村久(二通)、南方享(二通)、神田和也、川竹光男(三通)、提剛、長藤悦子、高橋聖二(二通)、山本照磨、芝野耕一、田中栄、朝野勝彦各作成の「確認書」と題する書面

一、花尻忠夫、岩城満雄、住野哲夫、嶋谷善三各作成の照会回答書

一、収税官吏作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書七通

一、収税官吏作成の調査報告書六通

一、東住吉税務署長作成の証明書

一、被告法人作成の法人税確定申告書謄本二通(証拠等関係カード検察官請求分番号3、4)

一、収税官吏作成の脱税額計算書二通

一、大阪法務局登記官作成の法人登記簿謄本

一、押収してある長吉出戸町土地売買契約書等関係書類一綴(昭和五五年押第四九〇号の一)、桧建設貸借関係記録一冊(同押号の二)、雑書類三綴(同押号の三、一一、一二)、普通預金通帳一冊(同押号の四)確定申告書原稿四綴(同押号の五)、確定申告書控一綴(同押号の六)、決算明細書三綴(同押号の七、八、九)、決算報告書一綴(同押号の一〇)、約束手形半片二冊(同押号の一三)、仕入(買掛)、外注帳一綴(同押号の一四)、領収書綴り一二綴(同押号の一五)、銀行勘定帳二冊(同押号の一六、一九)、仕入・外注・経費帳一綴(同押号の一七)、小切手半片六冊(同押号の一八)、経費明細帳一綴(同押号の二〇)、振替伝票綴り一三綴(同押号の二一)、仕入外注帳一綴(同押号の二二)、不動産契約証書三綴(同押号の二三、二五、二九)、不動産契約書・領収証一二綴(同押号の二四)、不動産売買契約証書一通(同押号の二六)、不動産契約証書関係書類一綴(同押号の二七)、長吉出戸町売買契約書一葉(同押号の二八)

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人、被告人らの争う争点についての当裁判所の判断の要旨は、以下のとおりである。

一、財産増減法の適否について、

弁護人は、法人税法は、所得計算につき損益計算法によるのを原則とし、財産増減法は損益法によりえない特別の事情が存する場合にのみ例外的に認められるものであり、本件では損益法による計算が可能であったから財産増減法による主張、立証は違法であると主張する。又、被告人桝本個人の資産が被告会社に持込まれているので、財産増減法によることは許されないと説く。

そこで検討するに、所得計算につき財産増減法と損益計算法の二つの方法の存することは周知のところであるが、両者による所得計算の結果は、理論上は一致するものであり、法人税法上いずれかを原則とすべきものと解すべき合理的理由は存しない。むしろ、これは脱税事件における立証方法の適否の問題であって、いずれの方法によれば実額が正確に把握できるかを比較検討したうえでどちらの方法によるべきかを決するのが相当である。本件記録によれば、被告会社においては、日々の取引の記録が存せず、売上圧縮額は帳簿上不明であり、その他の追加工事等についてはこれを確定するに足る証拠がなく、営業経費についても領収証等の証拠が少ないことが認められ、又このような証憑書類の不足を補うに足る供述証拠等も存しないことが認められる。日々の取引に関する被告人桝本の当公判廷における供述は、細かい点については、曖昧な供述に終始し、到底証憑書類の不備を補うに足るものでないことはいうまでもない。

以上の点から考えると、損益計算法の前提となるべき会計帳簿が不備であり、かつこれを補うに足る他の証拠も存しない本件においては、損益計算法によりえないことは明らかである。

財産増減法については、各期首、期末の財産を確定することが必要であるが、本件記録によればこの点問題は存しない。被告人桝本個人からの持込資産の有無については、後述の被告人桝本個人の収支計算により明らかなように、被告人桝本個人の資産の持込みが存しなかったものと認められる。証人桝本澄子は、同女の個人資産は、被告会社設立前に四〇〇〇万円位あり、その一部を被告会社に持込んだが、その金額は不明である旨の供述をしているが、その資産の出所、管理方法、持込みの内容、返済内容等については、漠然とした供述に終始しており、供述も全体的に矛盾齟齬しており俄かには措信し難い。この点についての被告人桝本の当公判廷における供述もかなり曖昧であり、捜査段階においては一切弁解していないことをも考慮すると到底措信できない。他に同女からの持込資産の存在を窺わせるに足りる証拠は存せず、結局、同女からの持込資産も存しなかったものと認めるのが相当である。

以上の判示から明らかなように、本件においては財産増減法によるのが適切妥当であり、弁護人の右主張は採用しない。

二、預金等について

検察官は預金の帰属については、法人設立前の架空名義、被告人桝本個人、家族名義のもの、法人設立後の被告人桝本個人、家族名義の預金を被告人桝本個人の帰属とし、被告会社名義のもの、法人設立後の架空名義、無記名、従業員名義の預金を被告会社の帰属とし、被告人桝本個人と被告会社間の資金の移動は、貸借関係で処理をすべきと主張する。

これに対し、弁護人は、貸借関係での受取利息の計算については、検察官は、前述の個人帰属分の預金の受取利息しか計上しておらず、これを前提とする検察官の計算方法は不合理であって、採用すべきではないと主張する。

そこで検討するに、被告人桝本自身、預金の帰属については丼勘定で自分にもよくわからないので銀行にでも聞いてもらいたい旨供述していることから明らかなように、個々の預金についてその帰属を確定することはかなり困難である。

まず、法人設立前の預金については、法人設立時の被告会社への持込分(これは、社長借入金として処理されており、犯則所得計算上は関係がない。)を除いては、被告人桝本個人に帰属することは明らかである。

そこで法人設立後の個人名義、法人名義等の預金の帰属が問題となるが、まず個人名義の預金の推移については、公判調書中の証人東春雄(第五、六回)、同万代一寿(第七回)、同前田精一(第八、九回)、同鳥羽幸夫(第一〇回)、同田中純次(第一一回)、同篠原滋(第一六、一七、二五、二六回、添付の調書報告書を含む。)、同高橋進(第一八、一九回)の各供述記載部分、収税官吏作成の調査報告書二通(証拠等関係カード検察官請求分番号7、135)、「確認書」と題する書面(前記番号78ないし126)、収税官吏の被告人桝本に対する各質問てん末書及び同被告人の検察官に対する各供述調書によれば、別紙(四)のとおり、順次減少しているものと認められる。

次に被告人桝本個人の収支と財産増減を検討してみると、前記各証拠によれば、検察官主張のとおり個人名義の受取利息のみで計算すると、別紙(五)のとおりと認められ、収支差額を上回る財産増加が続いており、各期不足額が生じていることとなる。

又、被告会社、架空名義の受取利息を加算して計算すると別紙(六)のとおりと認められ、やはり前同様各期不足額が生じる。

被告人桝本個人の収入源としては、被告会社からの給料、賃料、受取利息しか存せず、他に収入の途はないものと認められる。

以上の点から考えると、法人設立後被告人桝本個人の資産が被告会社へ流入したものと解することは許されず、逆に毎期多額の資産が被告会社から被告人桝本に流出しているものと認められる。

従って、被告人桝本個人名義の資産が被告会社名義あるいは架空名義の預金となることは計算上ありえず、これを前提とする弁護人の主張は失当であり、検察官主張の計算方法は相当と解される。

前掲各証拠によれば、検察官主張額の預金、社長貸付金、未収利息、仮払税金がそれぞれ認められる。

三、ミズホ開発株式会社、瑞穂観光株式会社との取引について

1  長吉出戸の建売住宅の販売について

大阪市平野区長吉出戸町一丁目一二八番地所在の土地(当初は瑞穂観光の所有)上の建売住宅の販売について、検察官はミズホ開発が土地を提供し、その土地上に被告会社が建売住宅を建築し、その販売代金から土地代をミズホ開発に支払うとの約定であった旨主張する。これに対し、弁護人は、ミズホ開発が土地を提供し、そのうえに被告会社が建物を建築し、その販売代金から被告会社の支払った建設費等の諸費用を控除した残額をミズホ開発に支払う、換言すれば被告会社はミズホ開発との間に建物建築の請負契約を締結したにすぎないと主張する。

そこで検討するに、弁護人指摘のように、押収してある長吉出戸町土地売買契約書等関係書類一綴(昭和五五年押第四九〇号の一)中には、ミズホ開発と被告会社との間の建設工事請負契約書が存する。

公判調書中の証人西上昇(第一二ないし一四回)の供述記載部分によれば、右契約書は税務用あるいは建築資金を出すために作成したものと述べており、被告人桝本はこれに反する供述をしており、右契約書が両社間の取引の実態を正確に反映したものであるかを検討する必要がある。殊に、同綴中には両社間の不動産売買契約証書が存するが、西上証言によればこれも開発規制を避けるための便法であり、実際に土地を売買したものではないと断言しており、これらの点を考慮すると、書証の存在で事を決するのではなく、取引の実態を把握する必要がある。

西上証言は、全体としては前記綴及び桧建設貸借関係記録一冊(同押号の二)の記載内容と合致し、信用性が高いものと解されるが、これらの証拠によると以下の事実が認められる。

すなわち、本件土地につき、被告会社が建売住宅を建設販売し、ミズホ開発は土地代として坪当り四〇万円を取得するとの口約束で両社間に話がはじまり、結局は、念書に記載のあるとおりミズホ開発は土地代として坪当り三四万五〇〇〇円、総額で一億五六二〇万円を取得すること、しかし現実にはミズホ開発は総額で一億五九一〇万円を被告会社より受取っていたことが認められる。(弁護人指摘の確認書記載の文言は、本来は福田の土地に関するものであり、右文言が長吉出戸に関するものとはいえない。更に弁護人指摘の土地代及びその利益の趣旨は、簿価との差額の譲渡益と解される。従って、弁護人指摘の点は、いずれも前期認定事実を左右するものではない。)

右認定事実によれば、本件取引の実体は、ミズホ開発の提供する土地に被告会社が建売住宅を建築、販売し、土地代をミズホ開発が取得し、販売代金との差額を被告会社が取得するものと解される。

2  浜若次、影山道夫の売掛金について

弁護人は、浜若次、影山道夫の売掛金は、ミズホ開発に帰属すべきものと主張するが、浜、影山は長吉出戸の建売住宅を購入したものであり、その売掛金が被告会社に帰属することは、前判示のところから明らかである。

3  土地棚卸について

弁護人は、長吉出戸の土地面積は、前記貸借関係記録一冊によれば、一二八五・七九平方メートルであり、検察官主張の数値と異なると主張する。

なるほど弁護人指摘のように、前記貸借関係記録にはその旨の記載があるが、前記証人高橋進の証言及び調査報告書(前記番号35)によると、長吉出戸の土地の公簿面積は一二七八・七五平方メートルと認められる。右調査報告書は、登記簿謄本等から転記したものであり、その記載内容からすると、貸借関係記録よりもその性質上正確と解されるので、土地面積は、一二七八・七五平方メートルと認定する。

4  仮受金について

検察官は、昭和四九年五月三一日において一五〇〇万円の、同年一〇月二九日頃、一〇〇〇万円の、各仮受金が存したと主張し、弁護人は、いずれもこれを争っている。

証人西上の証言等によれば、検察官主張のとおり各々の仮受金が存し、昭和五一年三月頃ミズホ開発において、損金処理をしたことが認められる。

更に、一〇〇〇万円の仮受金については、前記貸借関係記録中のメモの裏側に泉州/駒川の小切手(#五三九九九)を交付したとの記載があり、調査報告書(前記番号135)中のミズホ開発名義の普通預金に右小切手が入金となっているところからも裏付けられるところである。前記貸借関係記録中のメモは、長吉出戸に関するものと福田に関するものとが各々別記されており、弁護人指摘の記載箇所によっても、前記認定事実が左右されるものではない。

四、未成工事高について

弁護人は、大阪市平野区加美西二丁目二八二-一所在の建物について、建築確認書及び建物登記簿謄本をもとに昭和五一年五月三一日現在、未だ工事は着工されていず、未成工事高に計上することは許されないと主張する。

しかし乍ら、収税官吏の被告人桝本に対する質問てん末書(前記番号62)、同被告人の検察官に対する供述調書(前記番号69)、前記証人高橋進の証言及び添付の調査報告書によれば、検察官主張のとおり、三戸は一〇〇%、六戸は五〇%完成していたものと認められ、右認定に反する同被告人の当公判廷の供述は俄かに措信し難い。弁護人は建築確認書の日付から未だ工事が着工されていなかったものと主張するが、同被告人自身既に工事に着手していたことを捜査段階から認めており、押収してある不動産契約証書関係書類一綴(前同押号の二七)中の入路の契約書の作成日付からもこのことを裏付けることができ、建築確認書をしても前記認定を左右するものではない。

弁護人は、坪当り工事原価についても争っているが、被告人桝本自身、検察官に対する供述調書では、昭和四八年五月期は一三万五〇〇〇円、昭和五〇年五月期は一六万円、昭和五一年五月期は一八万円位で計算していたと認めており、物価の高騰等をも考慮すれば、検察官主張の昭和四八年五月期の工事原価一三万五〇〇〇円を基準に年一〇%増で工事原価を計算したのは極めて穏当であり、これに比し、同被告人の工事単価はオイルショックの影響により下落したとの当公判廷での供述は、不自然不合理であり到底採用し難い。この点についての弁護人の主張も理由がない。

五、車輌運搬具について

弁護人は、乗用自動車リンカーンは、被告人桝本個人の所有であると主張するが、被告会社作成の法人税確定申告書謄本(前記番号4)及び押収してある確定申告書控一綴(前同押号の六)によれば、被告会社の所有物として減価償却費を計上しており、右認定事実に照らすと、同被告人の当公判廷における供述は措信し難く、リンカーンは被告会社に帰属するものと認める。

六、支払手形について

弁護人は、昭和五〇年五月三一日現在の木村工務店への支払手形五〇〇万円及び昭和五一年五月三一日現在の吉川製作所への支払手形二〇万円がそれぞれ計上洩れとなっていると主張する。

そこで検討するに、弁護人主張の木村工務店への支払手形は、木村正彦作成の「確認書」と題する書面に記載のある昭和五〇年四月二二日の額面一〇〇〇万円か同年五月一五日の額面五〇〇万円の手形のいずれかをさすものと思われるが、調査報告書(前記番号135)によるとこれに対応する銀行決済がなされていず、右記載のみをしては支払手形の存在を認定することは許されない。

次に吉川製作所への支払手形について検討する。押収してある確定申告書控一綴(前同押号の六)、約束手形半片二冊(同押号の一三)、調査報告書(前記番号135)によると昭和五〇年一二月二六日の額面二〇万円の手形に関しては、同五一年三月二七日に兵庫相互銀行平野支店の被告会社名義の当座預金口座から取立済であることが認められ、支払手形とならないのは当然である。

七、買掛金について

1  一期期首の買掛金として、検察官は、ミズホ開発への一五七〇万円が存すると主張するのに対し、弁護人はこれを認めるに足る証拠は存しないと主張する。

そこで検討するに、ミズホ開発への買掛金は、同社の所有する堺市福田及び大阪市平野区長吉出戸所在の土地上に被告会社が建売住宅を建築したので、被告会社からみて土地を仕入れとし、未分譲分の土地代を土地棚卸しとし、土地代金未払分を買掛金として計上したものである。昭和四九年五月三一日現在のミズホ開発に対する買掛金については、調査報告書(前記番号7)のほかこれを具体的に証すべき証拠が存しない。証人西上昇の証言及び押収してある桧建設貸借関係記録一冊(前同押号の二)によれば、福田の土地に関しては、買掛金残が昭和四八年九月三〇日現在で七二六万円、同四九年九月三〇日現在で二一七九万六三三〇円存したことが認められるが、昭和四九年五月三一日現在の金額を確定するに足る証拠は存しない。前述のとおり、昭和四八年九月三〇日以降買掛金が増加していることに鑑み、昭和四九年五月三一日においては少くとも福田の土地棚卸高八五一万三六一九円と同額の金額が買掛金として存したものと解するのが相当である。

2  一期期末の買掛金のうち、ミズホ開発一九一〇万円を認めるに足る証拠は存しないと弁護人は主張する。

収税官吏の被告人桝本に対する質問てん末書(前記番号59)、調査報告書(前記番号37)、押収してある桧建設貸借関係記録一冊(前同押号の二)によれば、長吉出戸の建売住宅の未分譲分のうち、ミズホ開発の取得すべき泉州銀行駒川支店に入金した買主石崎嘉彦、同田中季晴の各ローン分一〇六〇万円、八五〇万円の合計一九一〇万円と認められる。

なお、弁護人は、土地棚卸高と買掛金とが一致すべきと主張するが、前判示のところから明らかなように、被告会社は分譲の都度その土地代金に相当する金額をミズホ開発に支払っていないため、土地棚卸高と買掛金とが一致しないのは当然である。

3  一期期首の買掛金のうち東門平蔵に対する五七八万円について、弁護人はこれを認めるに足る証拠は存しないと主張する。

収税官吏の東門平蔵に対する質問てん末書及び押収してある雑書綴り一綴(前同押号の一一)によれば、被告会社は、東門平蔵から堺市深井中町三六二-一所在の土地を売買代金五五四〇万円で購入し、昭和四八年九月一九日、一〇〇〇万円、同四九年三月一四日、二〇〇〇万円、その後三回にわたり一五〇〇万円、一〇〇〇万円、四〇万円をそれぞれ東門に支払ったものと認められる。従って一期期首において買掛金は存しなかったものと認められ、弁護人の右主張は理由がある。(なお押収してある確定申告書原稿四綴(前同押号の五)中の2によれば買掛残として二六五〇万円存したとの記載があるが、右金額は、検察官主張額とも異なり、収税官吏の東門に対する質問てん末書に照らし、これのみをもってして買掛金の存在を認定するのは相当と認められない。)

4  一期期首の買掛金のうち検察官は、丸善建材店四二万七二六〇円、住吉産業九六万一一七六円が存すると主張するのに対し、弁護人は、前者が一〇万六四〇円、後者が八七万七〇七二円であると主張する。

押収してある仕入・外注・経費帳一綴(前同押号の一七)によれば、丸善建材店に対する買掛金は四二万七二六〇円、領収証綴り一二綴(同押号の一五)中の住吉産業作成の昭和四九年五月一一日付け請求書によれば、住吉産業に対する買掛金は、九六万一一七六円とそれぞれ認められる。

5  弁護人は、一期期末の買掛金のうち武野成矩に対する一六万三二九〇円を認めるに足る証拠は存しないと主張する。

押収してある不動産契約証量一綴(前同押号の二五)中の同人に関する不動産契約証書及び同書に添付の領収証等によれば、一六万三二九〇円の買掛金の存することが明らかに認められる。

6  弁護人は、二期期末においては、禎文男に対する買掛金二一〇万円が存すると主張する。

収税官吏の被告人桝本に対する質問てん末書二通(前記番号61、62)、調査報告書二通(前記番号7、135)等によると、禎文男に一九〇〇万円で建売住宅を売却した際、大阪市平野区流町三丁目所在の物件をローン付きで一〇〇〇万円の評価で下取りをしたが、そのローン残が昭和五一年五月三一日現在二四四万円存し、右金額は被告会社の借入金として計上されてり、他に買掛金残は存しないものと認められ、以上の点は被告人桝本自身当公判廷で認めているところであり、弁護人の右主張は採用しない。

八、未払金について

二期期末未払金中、検察官は、〈1〉関西タイル工業一六万五〇〇〇円、〈2〉平尾塗装店五〇万円、〈3〉高橋畳商店二一万三〇〇〇円、〈4〉福山鈑金工作所二四万円、〈5〉奥村組二万一九三〇円、〈6〉布施美装一五万八〇〇〇円〈7〉阪和設備工業三九五万円であると主張するのに対し、弁護人は二期法人税確定申告書記載のとおり、〈1〉二七万円、〈2〉五八万七五〇〇円、〈3〉四四万五七五〇円、〈4〉三九万六四五五円、〈5〉一八万四〇二〇円、〈6〉二七万八〇〇〇円、〈7〉四七一万円であり、このほかに〈8〉十九川電化サービス五〇万円、〈9〉早瀬尾工業所四二万七〇〇〇円が存すると主張する。

公判調書中の証人細井斉(第二二、二三回)、同山本正(第二四回)の各供述記載部分、押収してある確定申告書原稿一綴(前同押号の五の4)、昭和五一年五月期決算明細書一綴(同押号の九)中の各外注工賃と記載のある部分、調査報告書(前記番号135)中の兵庫相互銀行平野支店の被告会社名義の当座預金口座及び被告人桝本の検察官に対する供述調書(前記番号68)によると、被告人桝本の指示により外註工賃の水増しをすることとなり、昭和五一年六月分の外註工賃分を今期に繰入れたこと、前期決算明細書一綴中の外註工賃と記載のある部分のうち「追加」として記載されているものが水増し分であること、従って未払金の実額は、〈1〉一五万六〇〇〇円、〈2〉五〇万円、〈3〉二一万四〇〇〇円、〈4〉二四万円(前記調査報告書と対比すると、前記決算明細書一綴中の二四万四五五円のうち四五五円は値引きされたものと解するのが相当である。)、〈5〉一八万四〇二〇円、〈6〉一五万八〇〇〇円、〈7〉三九五万円であり、〈8〉、〈9〉についてはいずれも架空計上であることが認められる。

従って二期期末の未払金は、検察官主張額よりも一五万九〇九〇円多い八五六万七四六五円となる。

九、前受金について

弁護人は、前受金についてこれを認めるに足る証拠は存しないと主張するが、押収してある雑書綴一綴(前同押号の三)、契約書等(同押号の二三ないし二九)、「確認書」と題する書面(前記番号78ないし126)調査報告書(前記番号7)、収税官吏の被告人桝本に対する各質問てん末書等によれば、検察官主張額を優に認めることができる。

一〇、二期の所得額について

二期の所得額については、別紙(三)修正貸借対照表記載のとおり実際総所得金額は一億九六三万四八二一円であるが、訴因として掲げられているのは一億八二三万七七五一円であるので、訴因の拘束力により一億八二三万七七五一円の限度で所得額を認定する。

(法令の適用)

被告人桝本秀美の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人桝本秀美を懲役八月に処し、情状により同法二五条一項により被告人桝本秀美に対しこの裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。

被告人桝本秀美の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二、〇〇〇万円に処する。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、全部、被告人両名の連帯負担とする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金山薫)

別紙(一) 修正貸借対照表

昭和50年5月31日

桧建設株式会社

〈省略〉

別紙(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙(三) 修正貸借対照表

昭和51年5月31日

桧建設株式会社

〈省略〉

別紙(四)

〈省略〉

別紙(五)

〈省略〉

別紙(六)

〈省略〉

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